水道水に含まれる硝酸態窒素は危険なのか?

硝酸態窒素は水道水にも微量に含まれる物質で、体に悪影響を及ぼす可能性があると言われています。

・そもそも硝酸態窒素とはどういうものなのでしょうか?

・本当に硝酸態窒素は危険なのでしょうか?

硝酸態窒素(硝酸塩)とは

硝酸態窒素は窒素の酸化物の一種であり、農業や工業で一般的に使用され、土壌、水、植物中などあらゆる場所に広く存在しています。

硝酸態窒素は「硝酸体窒素」「硝酸性窒素」とも表記され、似ているものに硝酸、硝酸イオン、硝酸塩などがあります。

解説

  • 硝酸・・・HNO3とし表記され、無色の液体であることが多く、肥料やメッキの素材によく使われています。
  • 硝酸イオン・・・NO3-といい、どこにでも存在している無機物です。
  • 硝酸塩・・・硝酸イオンが結合している塩類の総称です。
  • 硝酸態窒素・・・硝酸イオン(NO3-)に含まれる窒素(N)のことで、NO3-Nと表記されます。

ちなみに、「硝酸態窒素」と「硝酸塩」は中身としては事実上同じものです。

硝酸は窒素の酸化物で、強い酸です。植物の窒素肥料なのですが、そのままでは酸性が強くて使えないので、カルシウムなどと反応させた塩(=硝酸塩)として使います。

窒素は植物の成長に欠かせませんが、化学肥料に含まれた窒素が土中で硝酸態窒素となり、水道水源となる地下水に混ざることで私たちの生活に届きます。

硝酸態窒素の用途

肥料として

硝酸態窒素は肥料として広く利用され、作物の生長を促進する効果があります。

特に葉物野菜には窒素肥料が不可欠です。

例えば、ほうれん草は収穫時に濃い緑色であれば日持ちが良くなります。そのため、ほうれん草栽培では窒素肥料をたくさん与えます。

その結果、硝酸態窒素の含有量が多くなってしまうのです。

工業製品として

硝酸態窒素は工業製品の原料としても使用され、多岐にわたる用途があります。

例えば、電気メッキにおける洗浄剤・防錆剤、希土類精鉱の溶解剤、その他、製品の触媒としても用いられます。

爆薬として

軍事諸施設では、硝酸態窒素が爆薬として使用されることがあります。

我が国における硝酸は、戦時中、主に軍需要爆薬原料として製造され、その後、用途は有機合成化学原料、硝酸窒素肥料、硝安、硝酸ナトリウムなどのアンモニア系製品原料用となってきています。

地下水の汚染

硝酸態窒素は土壌に吸着されにくく、過剰に施肥すると雨や水やりで簡単に地下水や河川に溶け出してしまいます。

硝酸態窒素が多く含まれる地下水を井戸水として飲用することはメトロヘモグロビン血症の恐れがあります。特に生後3ヶ月未満の乳幼児で発生しやすくミルクの調整水に井戸水を使う場合は特に注意が必要です。

また、畑から流れ出した硝酸態窒素は湖沼や海などの富栄養化を引き起こし、有毒なアオコなどが大量に発生する一因となります。

ちなみに、地下水の基準値は硝酸態窒素と亜硝酸態窒素の合計で10mg/L と定められています。

健康への影響

硝酸態窒素は単体では人体に対しての有毒性はありません。

しかし、体内に摂取した硝酸態窒素は、還元されると亜硝酸態窒素という物質に変化します。

この亜硝酸態窒素が人体にさまざまな影響を及ぼすことがわかっています。

発がん性

硝酸性窒素の過剰摂取によって発がん性が懸念されています。

消化管で吸収されると微生物によって還元され、アミンやアミドといったタンパク質と反応することで、ニトロソアミンという発がん性物質を作ります。

メトヘモグロビン血症

硝酸態窒素を多量に含む水を摂取した場合、体内で細菌により亜硝酸塩へと代謝されます。

亜硝酸塩は血液中で赤血球のヘモグロビンと反応してメトヘモグロビンを生成し、呼吸酵素の働きを阻害するメトヘモグロビン血症を引き起こします。

これまで北米とヨーロッパで約2,000の発症例があり、そのうち7~8%が死亡したとの報告があります。

飲用水からの影響

水道水の水質基準は、硝酸態窒素と亜硝酸態窒素を合算した「硝酸態窒素及び亜硝酸態窒素」として10mg/L以下となっています。

飲用水を通して摂取した硝酸態窒素は、消化管から吸収され、血液、尿、唾液中に移行しますが、一部は消化管内の微生物によって還元され、亜硝酸態窒素となります。

血液中に移行した亜硝酸態窒素はヘモグロビンと反応し、メトヘモグロビン血症という酸素欠乏状態となり、チアノーゼ症状を引き起こす場合があります。

成人ではほとんど起こりませんが、胃酸分泌の少ない乳幼児はメトヘモグロビン血症になりやすいといわれています。

海外では「ブルーベイビー症候群」という、地下水汚染で硝酸性窒素が高濃度になった水を飲んで、赤ちゃんが青くなって亡くなった事例も報告されています。

緑の濃い野菜は危険!?

ほうれん草や小松菜、チンゲン菜などの葉物野菜に多く含まれている硝酸態窒素は、摂りすぎてしまうと発がん性物質の原因、糖尿病、アレルギーの原因になると指摘されています。

葉物野菜は濃い緑色であれば日持ちが良くなります。そのため、例えばほうれん草栽培では窒素肥料をたくさん与えます。

つまり、「緑色が濃い=硝酸態窒素の含有量が多い」ということになるのです。

どのくらい摂取すると危険なのか?

硝酸態窒素の毒性は強くありません。

食品安全委員会が算出した飲料水としての耐容一日摂取量は、1.5mg/kg(体重50㎏として75㎎)で、亜硝酸態窒素は硝酸態窒素の100倍です。

インターネットなどで硝酸態窒素と 亜硝酸態窒素を混同して毒性を強調している場合がありますが、毒性が強く注意が必要なのは亜硝酸態窒素です。

※耐容一日摂取量(TDI)とは

 環境汚染物質等の非意図的に混入する物質について、人が生涯にわたって毎日摂取し続けたとしても、健康への悪影響がないと推定される1日当たりの摂取量のことです。  通常、1日当たり体重1kg当たりの物質量(mg/kg 体重/日)で表されます。 TDIは、重金属等に関する指標として用いられます。

硝酸態窒素の摂取量は水以外からが多い

硝酸態窒素が水質基準上限の10㎎/Lの水を1日3L摂取したとすると、30㎎の摂取量で、耐容一日摂取量の半分以下です。

また、硝酸態窒素は、飲料水に含まれている場合も有りますが、実は最も多く含まれているのは野菜類なのです。特に葉菜類には多く含まれており、農水省の調査では小松菜の平均値が4,070㎎/㎏という報告もあります。 

しかし、野菜類についての硝酸態窒素の基準値は、現在、日本では定められていません。水道水にのみ設定されています。

一般的な食生活の中で、硝酸態窒素の摂取は飲用水以外からが多く、摂取量を減らすのであれば、野菜からの摂取を抑えることが現実的です。

 飲用水からの摂取を抑えるために硝酸態窒素を除去することを謳った浄水器などがありますが、水から摂取する硝酸態窒素は極わずかのため、硝酸態窒素を除去する目的での浄水器の設置はあまり意味がないといっても過言ではありません。

むしろ、硝酸態窒素の除去と引き替えにもともと水に含まれているカルシウムやマグネシウムなどの有用なミネラルまで除去されてしまうものが多く、ミネラル補給としての飲用水の役割をなくしてしまいます。

 

硝酸態窒素は浄水器で除去できなくても問題ない

実は、多くの浄水器メーカーがカートリッジに使用している活性炭に硝酸態窒素に対する除去性能はありません。

また、JISの浄水器の検査項目にも硝酸態窒素は指定されていません。つまりわずかに水道水に含まれる程度の硝酸態窒素は気にする必要のないレベルということになります。

水道水で一番気にしなければいけない問題は残留塩素、トリクロロエチレン、トリハロメタンなどの有害物質です。また、最近では有機フッ素化合物による健康被害も報告されています。

これらの有害物質は活性炭で除去できます。

私達の生活、家族の健康のためには何が重要で何が必要かを見極めることが大事です。